那覇家庭裁判所 1972年(家イ)16号・1972年(家イ)15号 審判
主文
相手方は、申立人等を認知する。
理由
一 申立人等は、主文と同旨の審判を求め、その事由として述べる要旨は、
(一) 申立人比嘉時義は、昭和三二年九月一日○○村字○○二五六三番地で、同比嘉孝行は、昭和三五年四月七日前記同村同字二五七三番地で比嘉充子(旧山崎充子)の子としてそれぞれ出生した。
(二) 申立人等の母比嘉充子は、国籍フィリッピン共和国ジョージ・クルスと昭和二六年三月頃から婚姻を前提として同棲し、昭和二八年六月一三日○○村長に婚姻届出を了したものであるが、ところがジョージ・クルスは昭和二八年一〇月一〇日フィリッピン共和国へ帰国した、当時は、申立人等の母も共に夫の本国へ行くつもりでいたが、両親等の反対で渡航出来ずその夫ジョージ・クルスと昭和三四年八月二〇日裁判上の離婚をなし、昭和三五年二月一七日離婚の届出を了した。
従つて昭和二八年一〇月一〇日以後は、申立人等の母と前夫のジョージ・クルスとは交渉は全くない。
(三) 申立人等の母比嘉充子はジョージ・クルスと正式に離婚する以前、現在の夫比嘉政泰と昭和三一年七月頃から婚姻を前提にして同棲するようになり昭和三二年九月一日に時義を、昭和三五年四月七日に孝行をそれぞれ分娩した。
(四) 右の如く申立人等は真実は、申立人等の母比嘉充子と相手方との間に出生した子であるが、申立人等の母とジョージ・クルスとの間の嫡出子としての推定を受けることになり今まで出生届をなさずに今日に至つている。よつて右申立人両名は相手方の認知をえて相手方と母比嘉充子の間の嫡出子として出生届出のうえ戸籍に登載されたく、本件申立に及んだものである。
二 本件につき一九七二年四月二一日に開かれた調停委員会の調停において相手方が申立人等を認知することにつき、当事者間に合意が成立し、その原因についても争がないので、当裁判所は、本件記録添付の各戸籍謄本、出生証明書、中頭巡回裁判所一九五九年(タ)第一三号離婚請求事件判決謄本並びに申立人等の法定代理人親権者比嘉充子および相手方に対する審問によつて必要な事実の調査をしたところ一の(一)ないし(四)に記載したとおりの事実が認められる。
三 ところで、法例一八条により、子の認知の要件は、その父に関しては認知の当時父の属する国の法律により、その子に関しては認知の当時の属する国の法律によつて、これを定めるべきであるから相手方について日本民法によるべきであり、また申立人等は、国籍を有しないので、一応その母比嘉充子とフィリッピン共和国ジョージ・クルスとの間の嫡出子と推定され、これを前提とする限り、その出生した時父がフィリッピン共和国人であるため、フィリッピン国籍を有するものと解されるから(フィリッピン民法四八条三項)申立人等についてはフィリッピン国民法によるべきことになり、従つて、本件認知の要件は、日本民法およびフィリッピン民法によるべきものである。
そこで、本件認知の要件を日本民法およびフィリッピン国民法によつて審査するに日本民法(第七七九条)、フィリッピン国民法によつても被認知者は嫡出でない子でなければならないから、相手方が申立人等を認知できるためには、申立人等が嫡出でない子であることを要する。
そして、法例一七条によると、子の嫡出であるか否かは、その出生の当時母の夫の属した国の法律によつて定めることになつているのであるが、本件申立人等の出生当時母である比嘉充子は前記認定のとおりフィリッピン共和国の国籍を有するジョージ・クルスとの間になお法律上婚姻関係を継続していたのであるから申立人等が嫡出であるか否かは、ジョージ・クルスの属したフィリッピン共和国の法律によつて定めることになる。
フィリッピン共和国民法第二五五条前段によると結婚式典の日から一八〇日以後そして別居又は婚姻解消の日から三〇〇日以内に出生したる子供は嫡出子と推定されるのであるが同条後段は、この推定に対する反証として子供の出生前三〇〇日のうち最初の一二〇日の期間内夫が身体的に不可能で妻との関係がなかつたこと以外の証拠の提出は必要としない。(即ち夫婦が別居していて夫婦関係が全く不可能であること)によつて覆えすことができることが認められている。そうだとすると、本件申立人等は、一応比嘉充子とジョージ・クルスとの間の嫡出子であると推定されるのであるが、申立人等は相手方に認知を求め、その嫡出子であるか否かが問題となる本件調停において、この推定を争いうるのであり、ジョージ・クルスは昭和二八年一〇月一〇日以後完全に不在で、申立人等の母比嘉充子と一切の交渉をもちえないことは、前記中頭巡回裁判所一九五九年(タ)第一三号離婚請求事件判決謄本、比嘉充子及び相手方に対する審問の結果によつて明らかであり、したがつて、この推定は完全に覆えされ申立人等は嫡出でなく、比嘉充子が相手方との間に儲けた嫡出子でない子であるといわなければならない。そうだとすると申立人等が相手方に対して認知を求める本件申立は、日本民法によりすべて認知の要件をみたしているので理由があるというべく、当裁判所は、調停委員石垣里申、同前田よし子の意見を聴いたうえ家事審判法第二三条に則り、主文のとおり審判する。
(家事審判官 島袋平正)